新紙幣とおばあちゃん
暑さが厳しい7月。
世間は新紙幣でやや盛り上がっている様子。
ちなみに僕はまだ持ってない。
今年の夏は例年より暑い気がする。
というか年々暑くなってないか?とも思う。
夏になると仕事がしんどいが寒いより暑い方がまだいいので冬よりかマシか。
四季のうち2つの季節が仕事をするのに適していない季節とかいうバグ。
しかも最近の秋はどこかに消え去り10月くらいまで夏みたいに暑く、気づいたら冬になってる。
いよいよ1年間を通して働くのに、いや生きていくのに適していない季節になりつつある。
7月は特に暑いがそれでも働かないといけない。
仕事帰り一緒に働いているおじさんが『自販機でジュースでも買うか?』と。
暑いので水分補給はとても大事、なにより自分の身体を一番大事。
車から降りてジュースを選んでいると隣には一人のおばあちゃん。
なにやら自販機に悪戦苦闘中の様子で手には新紙幣の5000円札を持っている。
一緒に働いているおじさんはコミュニケーション能力がカンストしているので、すかさずおばあちゃんに話しかける。
『それ使えないんですよ。』とおじさん。
『あら、そうなの。』とおばあちゃんは少し困惑しています。
この暑さで飲み物を買おうと新5000円札を汗だくになって握りしめている。
『1000円札ないなぁ。どれがいいの?』おじさんはコミュ力と優しさを持ち合わせた男。
『いや、そんな悪いですよ。』古き良き日本人の遠慮の気持ちで対応するおばあちゃん。
遠慮と優しさの押し問答をみて少し懐かしさも感じる。
結局おじさんの優しさに軍配が上がりおばあちゃんは飲み物を選ぶ。
『本当にありがとうございます。こんな親切な人達もまだいるんですね。』おばあちゃんは涙ぐみながら感謝している。
こんな人もいるんだなと逆に思うと同時に、いつもどんな仕打ちを受けているのか心配になる。
『これ受け取ってください。』おばあちゃんは5000円札をおじさんに渡そうとしてる。
『いや、いらないいらない。大丈夫だから。』おじさんは当たり前のように断る。
それもそうだ。これじゃ5000円のジュースを買ったのと買わない。
その後も再び懐かしい押し問答が繰り広げられたが結局おじさんは断って車の運転席に乗り込む。
取り残された僕、おばあちゃんのターゲティングがこちらに向いたのを感じた。
『これじゃ何にも買えないと思うけどもらって。』
いや結構色んな物買えるだろう。とツッコミ隙も与えず僕の手に5000円札を握り込ませるおばあちゃん。
結局何もしていない僕が5000円をもらうという形に。
おじさんに『使わないでとっといた方がいいな。』と言われたので今も使わないで引き出しにしまってある。
初めての新紙幣は奇妙な形で僕のもとにきた。
色んな物が便利になって人と人とが関わらなくても生活ができる世の中で最近ではあまり見ない人と人との繋がりをみた気がする。
新5000円札を見るたびにこの時の事を思い出すだろう。
おわり。